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Yokohama, Japan
Ludus Quartett
since 2010
第4回
芸術家か職人か、そこが問題だ!
杉劇シリーズ第4回 2017年3月28日(火)
14時開演(13時半開場) 3000円
会場:杉田劇場コスモス
Program
W.A.Mozart 弦楽四重奏曲 第19番ハ長調『不協和音』K.465
L.v.Beethoven 弦楽四重奏曲 第10番変ホ長調『ハープ』Op.74
いよいよ、
モーツァルトを様々な角度から捉えてきた杉劇シリーズも
お陰様で最終回を無事に終了いたしました。。
Ludus初のベートーヴェンはいかがだったでしょうか。
今回は、
「芸術家」という言葉の響きに、あなたは何を感じますか?
「職人さん」と聞くと、どんな人をイメージしますか??
という視点でお話しました。
答えのある質問ではありませんが、日々のちょっとした好奇心のひとつに
加えていただけましたら嬉しいです。
(以下、公演前の記載と、その後に、森 あかねさんのプログラムノートを記載しました)
しばしば、自分達が日頃、何気なく使っているものが、
海外では芸術品になったりして、改めて自国の文化について知る、
という時代になりました。
巷に溢れている音楽も、
音楽自体のみならず、様々な技術が駆使されて私達の耳に届いています。
コンサートホールそのものの響きが、
より一層、演奏を盛り立ててくれることも少なくありません。
しかし、そういった技術の素晴らしさは得てして、
説明し難い閃きやセンスに支えられているものだと思います。
すごーーーーく大雑把に言ってしまうと、
・心に刺激を与える芸術性
・何も気づかないほどに寄り添う職人技
といった所でしょうか。
今回取り上げるこの二人の大作曲家は、
その芸術性と職人技の使いどころが、まるで正反対のように感じるのです。
それは、それぞれの生きた時代が刻一刻と変化していったという背景も深く関わっています。
今回はそんな時代背景にも少し触れながら、
それぞれが円熟期の、
エネルギッシュで意欲的な試みが盛り込まれた2つの作品で構成しました。
Program Note 森 あかね
W.A.Mozart 弦楽四重奏曲 第19番
〈ハイドン四重奏曲 第6番 不協和音〉ハ長調 K. 465 (1785年)
この曲は、モーツァルトの四重奏曲の中で、第17番〈狩〉とともに最も有名な曲のひとつでしょう。題名からもわかるように、第1楽章で複雑な不協和音が多く用いられています。それらがあまりにも時代を先取りしているために有名になったと考えられます。出版社が間違った音が書いてあるのかと思い、モーツァルトに楽譜を返したと言う逸話があるほどです。ハンブルグで出版されていた〈音楽誌〉(Magazin der Musik)でも、「芸術としての最上を目指しすぎたために、感情や心に響くものがあまりない」と批判されています。しかし、この曲を献呈されたハイドンは、モーツァルトに最高の讃辞を与えました。1785年2月12日、モーツァルトがハイドンを自宅に招き、父レオポルドとともに、ハイドン四重奏曲の後半の3曲(K. 458, K. 464, K. 465)を演奏した時のことです。このことを父レオポルドは娘ナンネルへの手紙に記しています。
第1楽章の冒頭22小節に渡るイントロダクションが、ほぼすべて不協和音からなっているわけですが、ここでその不協和音がどのように作られているのか、始めの12小節を見てみましょう。譜例を参照にして下さい。
L.v.Beethovem 弦楽四重奏 第10番〈ハープ〉
変ホ長調 Op. 74 (1809)
この曲は、ベートーベンの弦楽四重奏曲の中で中期に位置し、3曲の〈ラズモスキー〉(Op. 59)の3年後に書かれたものです。また、前年に は交響曲第5番〈運命〉(Op. 67)と第6番〈田園〉(Op. 68)を、同年にはピアノ協奏曲第5番〈皇帝〉(Op. 73)、ピアノソナタ第24番〈テレーゼ〉(Op. 78)が完成されています。
〈ハープ〉という名前 は、第1楽章で多用されるピッツィカートが、ハープの音のようであることに由来します。ピッツィカートは第1楽章全体を通して、いくつかの楽器の間でかけあって使われています。特に再現部前の第125小節から138小節までの間、ダブルストップ(多重音)を弾いている第1ヴァイオリンの下で奏でられるピッツィカートはハープの音色を思い起こします。
第1楽章は、24小節のゆっくりとした導入部を持つソナタ形式です。この導入部では、変ホ長調であるにもかかわらず、Desの音が多用されていて調性が不安定です。曲の開始から変イ長調に転調してしまいそうですが、第1主題が始まったところ(第25小節)で変ホ長調に安定します。アルペジオの多い第1主題に対し、第2主題(第52小節)は 、音階の形態からなっています。この異なる性格を持つ2つの主題が、コーダ部分(第214小節)の直前で(第184小節から188小節)同時に奏でられ、2つの主題の和解が見られます。導入部と対照的な、まるで第1ヴァイオリンのカデンツのようなコーダ部分は、ほぼ第1主題、第2主題と同じ長さを持ちます。導入部とコーダ部分の性格は極めて対照的ですが、どちらも第1楽章の額縁のような役割となっています。
第2楽章はA B A C A Bのロンド形式で書かれています。遅いテンポの楽章のロンドらしく、規模の小さいロンドとなっています。同じセクションのくり返しは、リズムや調性においてかなりの変化が加えられています。第3楽章は3度繰り返されるスケルツォのセクションと2度繰り返されるトリオのセクションから成ります(S T S T S)。第1楽章と同様に、スケルツォのセクションがアルペジオのモチーフからなり、トリオのセクションはハ長調の音階の形態からなっていることで、2つの主題は対照的です。休みを挟まずに(アタッカ)で第4楽章へとつながります。この楽章を構成しているのは、テーマと6つのヴァリエーションです。ここでの 変奏曲は、和声の進行に基づく古典的な変奏曲で、典型的な最終楽章となっています。